このページは、Phase 1「線形代数」の一部として、行列はなぜ空間を変形するのかを扱う。目的は、記号を暗記することではなく、式・図形・変換・座標の対応を取り戻すことにある。
行列は「空間全体を動かすもの」である
行列を、数字の表として見ると死ぬ。 たとえば、
これは「2, 0, 0, 1の表」ではない。 これは平面上のすべての点を、
横方向に2倍する操作
として見る。 つまり、
は、
ひとつの点を動かすだけでなく、空間全体の布を引き伸ばす操作
である。 ここで線形代数が一気に重要になる。
- ベクトル:空間内の方向・差分・関係
- 方程式:空間内の条件
- 行列:空間全体を変形する操作
- 線形変換:その変形のうち、直線性を保つもの
行列をベクトルに掛ける計算
行列とベクトルの掛け算は、まずこの型だけ覚えればよい。
つまり、行列の1行目とベクトルを組み合わせて上の成分を作り、2行目とベクトルを組み合わせて下の成分を作る。 たとえば、
になる。 元のベクトルは「右に3、上に2」だった。行列を掛けた後は「右に6、上に2」になる。だから横だけ引き伸ばされた。
列で見る行列
行列
は、列に分けると、
である。 これは、
- 右向き基本ベクトルは (2,0) に変わる
- 上向き基本ベクトルは (0,1) のまま
という意味である。 そして、
は、右向き基本ベクトルを3個、上向き基本ベクトルを2個足したもの。 だから変換後は、
これが、行列をベクトルに掛けるということである。
線形とは何か
線形変換とは、
空間の中の矢印たちを、まっすぐさを保ったまま別の矢印に移す操作
である。 たとえば、
は、点やベクトルを
へ移す。これは横方向だけ2倍する変換だった。 このとき、平面上の格子を想像するとよい。方眼紙全体が横に引き伸ばされる。 ただし、
- 直線は直線のまま
- 平行な線は平行なまま
- 原点は原点のまま
である。 これが線形変換の基本的な感じである。
線形変換が守るもの
線形変換が守るものは、主に2つある。 ひとつめは、足し算を守ること。
これは、先に足してから変換しても、それぞれ変換してから足しても、結果が同じということである。 ふたつめは、倍率を守ること。
これは、伸ばす・縮めるという関係も、そのまま保たれるということである。 したがって、線形変換は、ベクトル同士の関係を壊さない。
基底ベクトルと行列
ベクトル
は、
と分解できる。 この2本、
を基底ベクトルと呼ぶ。基底ベクトルは、空間のものさしである。 行列は、この基底ベクトルをどこへ送るかを決めている。 行列の列は、基底ベクトルの行き先である。
せん断の例
たとえば、
を考える。 列で見ると、
である。 つまり、右向き基本ベクトルはそのまま、上向き基本ベクトルは右上方向に傾く。 この変換では、方眼紙が斜めにずれる。長方形のマス目が、平行四辺形になる。 こういう変形を せん断 と呼ぶ。 ここでも、直線は直線のまま、平行線は平行線のまま、原点は動かない。だから線形変換である。
線形変換、アフィン変換、非線形変換
問い
線形とは、例えば二次元ならx方向とy方向にどんだけ引き伸ばしても上下左右に引っ張ってもいいが、原点は動かさない。
みたいな変換をしても、原点 (0,0) は掛けても全部ゼロだから動かない。 逆に、
こんな変換は、行列として書けるの?
整理
2次元の線形変換は、ざっくり言えば、原点を固定したまま、平面全体を伸ばす・縮める・回す・反転する・斜めに潰す操作である。 ただし、線形変換の条件は「原点が動かない」だけではなく、
と、
を満たすことである。 一方、平面全体を右に3ずらす変換は普通の 2×2 行列では書けない。 ただし、次元を1つ増やして、
として扱うと、行列で書ける。
このやり方を 同次座標 と言う。
| 種類 | 何をするか | 原点 | 直線 | 例 |
| 線形変換 | 空間を伸ばす・縮める・回す・傾ける | 動かない | 直線のまま | (x, y) → (2x, y) |
| アフィン変換 | 線形変換+平行移動 | 動くことがある | 直線のまま | (x, y) → (x+3, y) |
| 非線形変換 | 場所ごとに変形の仕方が変わる | 動く場合も動かない場合もある | 曲がることがある | (x, y) → (x^2, y) |
非線形な世界でも、ある一点のごく近くを見ると、そこだけは線形変換っぽく近似できる。その「局所的な線形変換」が微分である。 つまり、線形代数は空間全体を一発で変形する言語であり、微積分は場所ごとに変形が変わる世界を、局所的な線形変換として読む言語である。