0. このページの位置づけ
このページでは、座標変換へ進む直前に出てきた「原点とは何か」という問いを扱う。
ベクトル、基底、座標、行列を学んでいると、ある時点で「そもそも原点とは何か」「どこをゼロと決めているのか」「観測者とは何か」という問いが出てくる。
この問いは、単なる補足ではない。座標変換、観測者、相対性理論へ進むための入口である。
1. 座標変換の前に出てきた問い
ユーザー
本題に戻りたい。次は座標変換だっけ?
その前に、点とベクトルだけが存在する、存在するというか、数学的対象として扱う。基底や座標や行列は、それらを観測し操作するための道具。みたいな理解でいいかな。
ベクトルは、物理学でいうと運動、しかも等速直線運動の一部を時間 t で切り取ったもの、というイメージ。動いている列車の真ん中にある光源Aから前後に向けて発射された光が、列車の前端B・後端Cまで移動する運動、がベクトル。
車内の観測者からみると、ベクトルABとACは、同じ座標系で同じ大きさで向きだけが逆。
車外の観測者からみると、列車の速度によって空間が進行方向にニョーンと変形されるから、ベクトルABとACの大きさが変わる、ということ?
単純に、A=(1,0), B=(-1,0) とすると、空間自体を進行方向に
という変換をしたら、A’=(2,0)、B’=(-2,0)。なんか違うね。B’=(-0.5,0) みたいになるかと思ったんだけど。
そして、原点、ってなんだろうね。そんなものあるのかね?観測者ということかな?
2. 点・ベクトル・基底・座標・行列
ChatGPT
次は 座標変換 でよい。そして、その前提としての理解はかなり合っている。
点とベクトルは、数学的対象として扱う。基底・座標・行列は、それらを測る・記述する・変換するための道具である。
ただし、行列は単なる道具というより、「変換そのもの」を表す数学的対象でもある。
ここで分けたいのは、次のこと。
| もの | 役割 |
|---|---|
| 点 | 空間内の場所として扱われる数学的対象 |
| ベクトル | 差分・向き・大きさ・変位として扱われる数学的対象 |
| 基底 | ベクトルを測るためのものさし |
| 座標 | 原点と基底を選んだときの表示 |
| 行列 | 変換、または基底・座標変換を表す数学的対象 |
点やベクトルは、座標で表示される前から数学的対象になりうる。ただし、計算し、比較し、測定し、変換するには、基底・座標・行列が必要になる。
3. 列車の光の話
物理的には、速度が一定なら、
なので、ある時間だけ切り取った運動は、変位ベクトルとして表せる。
ただし相対性理論では、単なる空間内のベクトルではなく、いつ・どこで起きたか、つまり事象 event を扱う必要がある。
または、
のように時間を含む座標で扱う。
列車の中心にある光源Aから前後に光が出るとする。車内の観測者から見ると、前端Bと後端Cまでの距離は等しく、光は同じ速さで進むので、前後に同時に届くように見える。
しかし車外の観測者から見ると、列車は動いている。前端Bは光から逃げる向きに動き、後端Cは光へ近づく向きに動く。ここで問題になるのは、単に空間が前後に伸び縮みすることではなく、観測者によって「同時刻の切り方」が変わることである。
したがって、
のように空間だけを横方向へ伸ばす行列では、相対性理論の本質には届かない。これは空間内の点を横方向に2倍する線形変換であって、時間座標を含まないからである。
4. 原点とは何か
原点は、絶対的に存在するものではない。
原点とは、座標系を設定するために選ぶ基準である。
平面上で原点を \(O=(0,0)\) と置くと、点Pの座標を \(P=(3,2)\) のように書ける。しかし、原点を別の場所に置けば、同じ点Pの座標は変わる。
つまり、原点は点Pそのものの性質ではない。原点は、点Pをどう記述するかを決める側の設定である。
ここで「観測者」という言葉が出てくる。物理で座標系を設定するとき、原点はしばしば、観測者が「ここ」と呼ぶ場所になる。
ただし、相対性理論では、原点は単なる空間上の点では足りない。いつ、その場所にいたのか、つまり時間も含める必要がある。
相対性理論では、原点は空間上の点というより、ある観測者が「ここで、いま」と呼ぶ事象になる。
5. 相対性理論への入口
相対性理論では、空間だけを \(x \mapsto 2x\) のように変形するのではなく、空間座標と時間座標を混ぜる。
ここで重要なのは、空間の位置 \(x\) と時間 \(t\) が別々に動くのではなく、観測者の運動状態によって混ざること。
だから、列車の光の問題は「空間がニョーンと伸びる」という直観だけではうまく捉えられない。むしろ、観測者によって同時刻面が変わる、という方向に進む必要がある。
線形代数の言葉で言えば、ここでは「同じ世界の出来事を、別の座標系で記述する」という問題が起きている。
対象そのものが変わるのか。表示が変わるのか。観測者が変わると、何が同じままで、何が変わるのか。
この問いが、座標変換から相対性理論への入口になる。
6. 次に戻る場所
ここでいったん数学側へ戻る。
次に固めるべきことは、次の区別である。
- 点そのものと、その座標表示は違う。
- ベクトルそのものと、その成分表示は違う。
- 原点は、座標系を設定するために選ぶ基準である。
- 観測者が変わると、座標表示が変わる。
- 相対性理論では、空間だけでなく時間も含めた座標変換が必要になる。
このページのあとで、逆行列、写像、像と逆像へ進むと、「変換したものを元に戻すとはどういうことか」「同じ対象を別の表示で扱うとはどういうことか」が見えやすくなる。